チェコ国立、ブルノ歌劇場オペラ「アイーダ」を、相模大野グリーンホールで楽しんできました。思い立ったのがその前の週の土曜日、チケット予約の電話を入れたらOKでしたので、受け取りは当日と言う事にして、家内と共に出かけてきました。手持ちのビデオにヴェローナの野外円形歌劇場のものがありましたので、それで予習して行きました。
やはりオペラは凄い、生は違う、人間は偉大だ!!、素晴らしい芸術だと思いました。配役は若手が活躍しているように思いましたが、特にラダメス役のエルネスト・グリサレスは大活躍で、若々しい張りのある声で大きな拍手を受けていました。それと王女アムネリス役のドゥブラフカ・ムショヴィチが、さらに素晴らしい出来栄えでした。ラダメスよりも背の高い女性ですが、声は彼女の方が大きく、また心に染みる旋律を聞かせてくれました。アイーダが可愛そうなくらいの熱演振りでした。アイーダ役はダグマル・ジャルドゥコヴァー、声は幾分低めで目立ちにくいのですが、なかなかの歌唱力の持ち主でした。パンフレットにある4人のキャストには挙がっていないので、急に抜擢されたのかもしれません。
舞台は大きな階段が雛壇のように置かれて、中央のトンネルを使って行進などの出入りがされるのですが、その作りは全4幕を通じて変りませんでした。しかし微妙な照明の違いや、ちょっとした小道具の配置によって、その場の印象が大きく変化しました。最後の墓場の場面では、ビデオで見たヴェローナの舞台よりも、真に迫るような良く出来た造りだったと思います。例えストーリーに飛躍があったとしても、舞台をうまく作りこんであれば、見る方としてはスーッとそこに入っていけるのが不思議な感じもしました。
ベルディのオペラを生で見たのは、数年前にこのグリーンホールで椿姫を見て以来でしたが、単に規模が大きいとか華麗な場面とかだけではなく、ベルディの内面を感じさせるものがありました。例えば捕らえられたエチオピアの奴隷を解放しようとする時に、「我々はこうやって捕虜となり、死の宣告を受ける立場となったが、明日はあなた達が同じような目に会うかも知れない」のフレーズとか、王女が第四幕で、恋に破れて憎しみさえ感じたラダメスの命乞いをする時、祭司に向かって「あなた達は間違っている、そんな仕打ちをするのが神に仕えるものの行うべき事なのか」のくだりは、アイーダと言うオペラが何を物語ろうかとしているかを考える上での大きなヒントになりました。
今回の公演は、舞台は狭くてとても本物の馬を登場させるような大掛かりなものではないし、凱旋の行進もアッと言う間に終わり、総勢 260名とは言ってもまるで小規模なアイーダでした。しかし、アイーダトランペットは舞台の最上段から生で演奏したようですし、バレー団の踊りは愛くるしく楽しめました。さらに配役の歌い手が、実にその役になりきっており、熱演を披露してくれたと感じました。決して有名なタレントが出るオペラが凄いわけではない、むしろ舞台の作りや照明の技術、観客と一体となった、あるいは一体とならざるを得ないような、よく考えられた演出と言うものが、大事な資産である数々のオペラ作品を生かすための重要な事なんだなと、とても勉強になった一日でした。