友人に誘われて、久々の池袋にある芸術劇場に行きました。内藤彰指揮、東京ニューシティ管弦楽団によるブルックナー交響曲第8番ハ短調です。芸術劇場に着いたときは大雨でした。帰りの池袋駅南口も、改札口の天井から滝のような雨漏りがありました。ここに集まってくる人たちは、真のブルックナーファンなのでしょう。特に第3楽章のアダージョに入ると、みんな身を乗り出して聞き入っていたように思えたのは、気のせいだけではなかったような気がします。
私が最近興味を持ってきたブルックナーのコンサートとしては、トリフォニーホールの京都フィルによる7番以来のコンサートです。第8番は、その楽譜の種類の多さにおいても、また長大な楽曲の長さにおいても、さらに著名な指揮者が取り組んだ演奏の多彩な面においても、話題に欠かない大作だと思います。今回の楽譜発見の重大性について、ブルックナーに詳しい友人の言葉を引用しておきたいと思います。(以下、引用)
ブルックナーの8番のアダージョには4種類ありますが、今回初演されたのは5つめのアダージョです。ブルックナー研究家の川崎氏という方が発見し、今回初演されたものです。これは他の人の手による改訂版とは違い、正真正銘ブルックナーが作曲したとのことです。ブルックナーは8番を完成すると、尊敬していたレヴィに楽譜(第1稿)を送ったのですが、批判的だったので大幅に改定した第2稿を作曲しました。しかし、実はこの間にアダージョのみもう1つ作曲していたというわけです。
現在では改訂版や第1稿(ノヴァーク版)は、ほとんど演奏されませんので、通常、ハース版かノヴァーク版(第2稿)のどちらかが演奏されます。ハースは第2稿を元にしながらも、気の弱いブルックナーが他の人の意見に従い、泣く泣く?カットしたであろう(音楽的には必要と思われる)部分を第1稿から復活させたりしています。しかし、ノヴァークは「研究者がそこまで立ち入るべきではない。」として第2稿、次いで第1稿それぞれを別々に出版しました。これには賛否両論があり、まだ決着はついていません。
・・・と、経緯を簡単に書きましたが、今回新たに発見されたアダージョは特にすばらしいものでした。ハースが復活させて論議となっている部分も一部入っていましたし、1稿にも2稿にもない音楽もたくさんありました。今までの4つのアダージョでも、この世のものとも思えぬ美しさですが、このアダージョはあの世の中でも最も美しいのではないかとさえ感じました。ただし、演奏については他に比較がないため特に言うことはありませんが、それほどのものではなかったと思います。今回は発見者の川崎氏に向けて拍手です。もしかして将来キャラガンの手によってこのアダージョが主流となり、この日の初演のことがレコードの解説書等に記載されるようになると、僕も孫?に自慢話ができるかもしれません。
以上が友人の書いてくれた記事でした。私は10年ぶりくらいで訪れたホールで聴いたのですが、音響もまずまずでした。3Fの後ろから2列目でしたが、音量はかなりありました。特に低音が良く出ていました。コントラバスが6本、チェロとビオラが9本ずつと少な目でしたが、すごい低音の響きでした。ブラスは三管編成でしたが、これも迫力がありました。オケの実力がもう少しあれば、さらに良かったと思うのですが・・・。でも、立派な演奏だったと思います。