昨年の「神々の黄昏」からもう一年経ちました。今年は「ローエングリン」、友人と二人で上野の文化会館に向かいました。受付で配られたプログラムは、日本人指揮者としてワーグナーに関する最高の見識と実績を持つ、飯守さんの思うところが余すことなく表現されていました。今までは、半分は御伽噺くらいにしか感じていなかった作品でしたが、実は人間の強さと弱さ、善と悪などに関する奥の深い意味が込められた作品であると、初めて知りました。
主役の成田勝美さんは、昨年もジークフリートを朗々と歌い上げた凄い歌手との印象を持ちましたが、今回のローエングリンではさらにその持ち味を発揮していたように思います。そのままバイロイトで歌っても、聴衆に深い感銘を与えるのではないかと思います。今回の演奏は、ノーカット全曲で行う予定とあり、成田さんなら充分に歌いこなすだけの力があると思いました。残念ながら直前に、一部カットの全曲演奏となりましたが、初演のリストが指揮した形式に戻した理由は、いずれ雑誌などで飯守さんが熱く語ってくれるだろうと期待します。
エルザ役の緑川まりさんは、すっかりお馴染みのメンバーです。オルトルート役の小山由美さんの溌剌とした声にも驚きました。これだから世界でも通用するのだと思いました。一方、緑川さんの演技と声は、また格別の味わいがありますね。どちらもその持ち味を生かした適役と思いました。
20分の休憩が二度ほどありましたが、14:00~19:00近くまでの間、この大作を堪能できました。オーケストラピットを大きくはみ出した大編成のオーケストラ(東京シティフィル)、飯守さんとの息もピッタリでした。両袖とコーナーに追加配置されたトランペットが文化会館いっぱいに鳴り響いたかと思うと、舞台中央から4台の大型トランペットが凄まじい大音量を響かせます。この長いトランペットは、「アイーダ」で使われるのと同じだろうかと、あとで友人と話したりしました。
昨年より立派な舞台装置と衣装の下、大いにワーグナーの世界を楽しむことができました。そして演奏はアッと言う間に終わりました。すごい拍手の嵐でした。何度となく呼び出された配役のみなさん、本当にお疲れ様でした。私と友人が4階席から降りてきたころ、また拍手の音が聞こえてきました。ロビーの近くから会場をのぞくと、飯守さんがひとりで出てこられ、たくさんのファンの拍手に応えていました。新国立には負けない世界がここにはあるのだと確信しました。ますます飯守さんには頑張っていただきたいと思います。