サントリーホールに行きました。彼女の演奏に関しては、手持ちのキーロフオペラ、ゲルギエフ指揮の「リュドミーラ」で強烈な印象を持っていたこと、それとサンクト・ペテルブルグ建都300周年の放映で、成長した彼女のコンサートと椿姫出演などの映像を見ていました。
また、2003年のキーロフ公演「戦争と平和」での来日中止でガックリしたファンも多かったでしょう。今回のリサイタルは、彼女がその美貌だけではなく、ソプラノとしてどんな力を持っているかが大変興味ある関心事でもありました。
曲目はモーツァルト、R.シュトラウス、グノー、ドボルザーク、ラフマニノフなど、どちらかと言うと歌曲主体でした。伴奏はマルコム・マルティーノ、ボニーやコジェナーなどとの共演で、私にもすっかり御馴染みのピアニストです。前半はピンク色の衣装を纏い、非常に魅力的な姿でした。一曲目の声を聴いた途端、「オォッ」と思いました。美しいのです。しかし、それだけではありませんでした。力に溢れていました。
曲が進むに連れて、観客の拍手に熱がこもって来たように思いました。私もすっかり彼女の歌の中に入り込んでしまいました。サントリーホールが小さく感じられます。声がホール全体から聞こえてくるような錯覚になりました。最近ではプロムスやザルツブルグでも大ブレイクを引き起こしている彼女の力を、まざまざと感じさせられました。
鳴り止まぬ拍手に応えて、アンコールを3曲歌ってくれました。親しみやすい曲を選んでくれたこともあり、観客も大喜びと興奮の渦に巻き込まれたようでした。これはマリア・カラスにも勝る歌手が現れたのではないかと、それまでの認識を一掃するに充分なリサイタルだったように思います。
当日のプログラムを読んでみたところ、いろいろなエピソードの紹介が載っていました。特に、22歳でゲルギエフに抜擢されて「リュドミーラ」などで脚光を浴びるようになったころ、コンサートアリアの椿姫で僅かな失敗をした時の話が印象に残りました。彼女は楽屋に戻って大泣きしたそうです。そして、あと5年間はこれを歌わないと話したそうです。そして、ちょうど5年後のキーロフオペラで見事にこれを歌いこなしたとありました。
今回の演奏は、全く不安を感じさせない堂々としたものでした。その背景にはこのような直向きな彼女のこだわりと努力があるのか・・・と、大変感心させられる記事が印象に残ったことも付け加えたいと思います。