
1/21(土)の公演に出かけました。当日はあいにくの大雪、ひとつ早い新幹線に乗りましたが、新横浜付近では住宅の屋根にもこんもり積もるほどでした。東京文化会館でも休憩のたびに外の景色が変わるほどの降りでした。
マリインスキーオペラを観に行くのは2003年の「オネーギン」以来ですが、会場はほぼ満席の人達が詰めかけてきました。ワーグナーの指輪を実演で聴くのは、飯森さんとシティフィルの「神々の黄昏」に続いて2度目になります。5時間半の公演時間に45分ずつ2回の休憩がありました。予習は1991-2年のバイロイトを第1幕のみ見てから行きました。今回の演出はゲルギエフ自らが構想を練ったものだそうですが、大掛かりな「貼り子」が宙に浮かび、光の技術をふんだんに使っていると聞きました。しかし実際はバイロイトなどと比べて、とてもシンプルな構成だったように思います。

配役は、ジークフリート(レオニード・ザホジャーエフ)、ミーメ(ヴァシリー・ゴルシュコフ)、ヴォータン(エフゲニー・ニキーチン)、エルダ(ズラータ・ブルィチェワ)、ブリュンヒルデ(ミラーナ・ブターエワ)などの顔ぶれでした。ニキーチンは2003年公演で「ボリス・ゴドゥノフ」のタイトルロールを、ブルィチェワは「戦争と平和」のソーニャ役を演じたようです。あのネトレプコがドタキャンした時の公演です。
いずれも素晴らしい歌唱力を披露してくれました。特にジークフリートはその若さ一杯の声と歌で存在感を示してくれたように感じました。またミーメ役は高音の伸びた素晴らしい声で魅了されました。アメリカ映画の魔法使いとして出てくるような凝ったメーキャップでビックリしましたが、ジークフリートで重要な役柄にピッタリだったと思います。最後に登場したブリュンヒルデ役のブターエワ、名前から想像できない美しい人でした。バレエのペレンに似ているようにも思いましたが、ややメゾ的な音域ですが良く通る声で、時折はPAが飽和するほどの力強い絶叫も聞かれました。

長時間の演奏を飽きることなく楽しめたのは、やはりゲルギエフの力ではないかと思います。「音楽は楽しめるものでなくてはならない」この言葉がいつも頭をよぎりますが、まさにそれを実践している彼の意気込みが伝わってくるようでした。特に第3幕のブリュンヒルデが登場するころから、私は暫し音楽に浸る至福の時間を味わいました。あのジークフリートの牧歌のメロディ、そしてワルキューレの主題が流れてくるとき、何とこの公演は音楽が美しいのだろうかと感じました。
舞台がどんどんシンプルに、また抽象化された演出が多くなってきたと思われる昨今ですが、それは総じて「オペラに音楽を取り戻そう」と言う意気込みの現れではないでしょうか。マリインスキーの弦の響き、弓と弦の擦れる音が言葉に表わせないほど美しく、また管楽器の鳴りっぷりは申し分なく、一味違ったワーグナー(あるいは本来のワーグナー)を表現してくれたと思いました。
今回のチクルスは合間にコンサートもぎっしり詰まっていて、殺人的なスケジュールになっていますが、ぜひ我々に音楽の楽しみを最後まで伝えてほしいと思いました。