写真はTA2020を使ったデジタルアンプの第4作目くらいにあたるものですが、現在でもこの構成をベースにした形でマルチアンプ化したりしています。
音質に影響を与える要因としては、先に書いた電源まわり以外にも、入力用のコンデンサや出力側のLPFがあります。入力側はいろいろと好みが別れる所ですが、私はサンヨーのOSコンを使っています。LPFはもっぱら空芯コイルとセラミックコンデンサです。後者の時定数に関して、各種議論を行ったときの、私の考えを紹介します。
カマデン製のアンプには、1uFと言う大きな(トライパス社の資料に比べて)容量のコンデンサが、コイルの後ろに使われています。この容量が大きい事でむしろ高音が硬くなる傾向が見られます。これはLCの共振周波数が可聴領域に近いところへ移動したためではないでしょうか。と言っても、まだまだ耳に聞こえない50kHzくらいの周波数です。一般的に20kHzまでフラットな周波数特性を持った装置でも、位相を保証するものではありませんので、20kHz付近の位相特性が変化したのではないかと予想されます。私はトライパス社推奨の0.2uFを、第1号機から採用しています。
また、いわゆるオーディオ用と称された高価なコンデンサが良いかと言えば、積層セラミックがベストであると言う考えです。ここは数MHzのスイッチング周波数を遮断するための回路なので、高周波特性が優秀であれば充分で、コンデンサが音質に影響する事は無いと思います。高周波と音声信号の混じった信号がコイルから入ってきます。その内の高周波の部分がコンデンサでバイパスされます。つまりパスコンです。音声信号はコンデンサを流れません。
L=10uH, C=0.2uF この組み合わせですと、共振周波数は 113kHzです。つまり直列共振回路(フィルタ回路)としては、これ以上の周波数で、12dB/OCTの減衰効果を期待できます。音声周波数については、例えば20kHzに対してのリアクタンスは、L=1.26Ω、C=39.8Ωですから、8Ωのスピーカーに39.8Ωの抵抗が並列に並ぶだけです。 50kHzを考えてみても、L=3.14Ω、C=15.9Ωのリアクタンスにしかなりません。
以上の値はリアクタンス分なので、理想的なコンデンサがもつ抵抗分です。実際の音に影響が出ると考えられるのは、損失の部分(tanδ)なので、さらに 1~2桁も大きな抵抗値がスピーカーの8Ωと並列に入るだけですので、可聴周波数へのコンデンサの影響は、ちょっと考えにくいと思っています。
以上の話は10uHと0.2uFだけの計算です。実際の回路では、さらに0.2uF+10Ωと、0.1uFが加わります。前者の方は、BTL両端に入りますので、20uHと0.2uFの組み合わせになります。ただし、10Ωの抵抗でダンプされるので、インピーダンスの下限は10オームで、どの周波数でもこれ以下にはなりません。0.1uFについては20uHとの組み合わせを考えるだけで済みます。難しいのは、これら三つのLC回路が互いに影響しながら同時に動いている事です。結果的には70kHzあたりが -3dBのポイントになりそうな気がしています。
20kHzで 39.8Ωのリアクタンスがスピーカーの8オームと並列に入る件ですが、これがコンデンサの種類の違いによる音の差として認識できるかどうかが問題だと思っています。リアクタンスはあくまでコンデンサの容量成分の話であり、音の差として出てくるのは、理想的なコンデンサから外れる部分、つまりtanδだからです。この部分の寄与は、40Ωより1~2桁も大きな(影響としては小さな)インピーダンスになると思うので、耳で聞き分けられるものかどうか、疑問を持ったのです。積層セラミックが理想のコンデンサ(高周波でtanδの少ない)とすると、それ以外のコンデンサは、単に理想からのズレが大きいだけ(高周波では)の話になります。
いろいろと考えた事をまとめると、コンデンサは理想的な(容量成分のみの)リアクタンスを持ってほしい。特に1MHz以上の高周波に晒されるような用途の場合は、tanδが大きいなどリアクタンス以外の成分を多くもつものを使うと、そこでエネルギーが消費されて余計な発熱や振動を生むなど、良い事は無いと思います。